Nicotiana tabacumは、南米原産のナス科の多年草です。茎は高さ1.5m〜2mになり、葉とともに全体に粘り気のある腺毛が密生しています。葉は楕円形で先がとがり、長さ30cmから大きいものでは50cmくらいになります。夏になると、茎の上部に総状花序を作って多数の花が開きます。タバコtabacoの名は、カリブ人が使っていたパイプの名に由来します。葉を乾燥させて製品たばこの原料に使用します。日本でも桃山時代頃に伝来して以来、東北から九州・沖縄までほとんどの府県で栽培されています。
ヨーロッパ人がアメリカ大陸を支配する以前には、タバコは、メキシコおよびペルーの原住民によって元来は神に捧げるために焚いた香料でもあり、儀式や医療のため、および飢饉の際に空腹をいやすためにも使用されていました。ペルーでは、喘息、痙攣、皮膚病などに用いられていました。タバコをヨーロッパに伝えたのはコロンブス(1492年頃)だと言われています。16世紀にフランスにたばこを伝えたフランスの駐ポルトガル大使ジャン・ニコ(Jean Nicot)は、タバコを頭痛薬として女王カトリーヌ・ド・メデイチに献上しました。女王はこれを愛用したことにより、王侯貴族の間に広まっていきました。 またニコは、たばこの汁やペーストを様々な傷の治療に使い評判となり、たばこは「大使の薬草」と呼ばれるようになりました。(タバコに含まれる主な成分のうちニコチンの名は、ニコがタバコをフランスへ持ち帰って紹介したのにちなみます。)また、タバコの煙が伝染病の予防薬だと信じられていたために、長年に渡って、タバコは、さまざまな病気の治療薬として、さまざまな方法(貼る、塗る、煙を吸う、咬む、においをかぐなど)で利用されました。
タバコには、知られているものだけでも19種類以上の発がん性物質(総称的に"タール"として知られています)および2,000種類以上の化学物質が含まれています。喫煙が肺ガンや心筋梗塞、狭心症、脳卒中につながり易いことは医学的に証明されており、一般的にも広く知られています。
代表的なものは、ニコチン、コウマリン、ステロール、各種アミノ酸、クロロゲン酸などがあります。なかでもニコチンは、タバコの葉にリンゴ酸塩またはクエン酸塩として含まれるアルカロイドの一種で、交換神経および副交感神経遮断作用を持ち、また中枢及び末梢神経を興奮させる作用と抑制させる作用の二つがあります。すなわち、ニコチンは神経細胞膜に対して、はじめは脱分極によって興奮させ、その後は持続的脱分極で逆に抑制させることがわかっています。ニコチンの神経系への主な作用点には、自律神経系節、運動神経筋接合部、交感神経-副腎髄質系におけるニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)2)があります。
これらの成分によって、腸及び血管を収縮させて血圧上昇を起こします。急性中毒では悪心・流涎・嘔吐・頭痛・虚脱等を起こし、また、慢性中毒では消化不良、慢性気管支炎、肺癌、口腔癌、神経過敏、狭心症、動脈瘤、心筋梗塞、不整脈、脳卒中等を呈します。また胎児の催奇形性や胎児死亡率の増加、体内ホルモンの活動に影響を及ぼす作用(例えば、視床下部-下垂体系での抗利尿ホルモンADHの分泌促進など)もあります。さらに、血小板の凝集促進作用があり、結果として血栓の形成をもたらすこともあります。吸入以外にも、皮膚を通じても毒性を発揮し、体内に入ると長期に渡って残留します。犬や猫の舌に高濃度のニコチンを置いて即死してしまった例があります。その致死量は50〜60mgとされています。また、喫煙者の飼育する猫は、非喫煙者の猫に比べて悪性リンパ腫の発生率は2倍になるという報告があります。5年以上飼育の例では、3.2倍の発生率だそうです。
ニコチンの身体に与える良い作用としては、記憶や注意力を覚醒させること、速度や反応時間や認識能力を高めることなどがあります。気分転換の薬として、退屈さを緩和したり、ストレスを軽減したり、ストレスを感じさせる出来事への反応を抑制したりする作用があります。また、食欲を抑制する作用があります。特に甘い物に対する食欲を減らし、食物の代謝効率を抑えます。
タバコの喫煙には、麻薬のような中毒性習慣性はよく知られています。
ハーネマンは、実は大の愛煙家でしたが、タバコの毒性についての研究は、何も行っていませんでした。ハーネマンの2人の弟子であるDr.HartaubとDr.Trinksが1831年にタバコの急性毒性についてのプルービングを行いました。ハーネマンの吸うタバコの煙をいつも間接的に吸っていたせいなのかもしれません。
プルービングでの急性毒性には、次のような症状が出ています。
○ 流涎、吐き気、嘔吐(動くと悪化し、外気で好転する)
○ 眩暈(眼を閉じると改善する)
○ 冷や汗が出て、顔色が蒼白になる。(皮膚が冷たい感触になる)
○ 多尿
○ 痛みの無い水様便
○ 不整脈や動悸、前胸部の狭窄感を伴う呼吸困難
Nicotiana tabacumは、主に乗り物酔いや吐き気に使用されます。
○ 車酔い、船酔い
○ つよい吐き気
○ つわり(流涎や唾がたくさん出る)
○ ひどい吐き気をともなう頭痛
○ 眩暈(眼を開けていると悪化)
好転する要因は、外気、寒さ、患部への冷湿布、腹部を覆わないこと、嘔吐、お酢や酸っぱい食べ物や飲物、などです。
悪化する要因は、極端な暑さや寒さ、暖かい部屋、運動、夜、眼を開けていること、左下に寝ること、乗り物に乗ること、などです。
Antidote; お酢、すっぱいりんご |